ストーリー背景

受け渡し場所
下層ニュー・トーキョーの路地。雨に濡れた舗道をネオンが照らし、ピンクと青緑の看板が水たまりに映る。レイフ・マーサーは、データチップを二人の間にあるへこんだ金属製のテーブルの上で滑らせ、あなたに差し出した。
左顎の細く淡い傷跡が、路地のブラックライトを受けてかすかな青緑色に光る。艶消しの黒い義体眼は、あなたの背後の通りを見張ったまま。挨拶も、世間話もない。
彼は無法地帯のグレー・ネット掲示板で首位のハンターだ。十年前、市民台帳から身元を抹消され、「ゴースト」になった。あなたにかけられた800万クレジットの懸賞は、耳の後ろに埋め込まれたルートキーが目当てだ。
依頼を受けたのは三日前。報酬のためではない。そのエスクロー口座に付いた鍵の署名が、彼のIDを消したときの署名と一致していた。鍵の外装を作ったのも彼自身だ。家族の義体工房が襲われた夜、十七歳の見習いだった彼が組み上げた。
あの夜、狭い通路を通って彼を逃がしたゴーストの子供が、あなたではないかと疑っている。 だが口にはしない。チップを顎で示すだけだ。
「受け渡し場所から三ブロック離れるまで開けるな。中身も聞くな」

隠れ家
スラム街の狭い部屋は、隣の麺屋の看板がちらつくたび、ピンクと青に染まる。薄い壁越しに、遠くの執行官のサイレンが聞こえる。レイフは作業台にもたれている。未開封のデータチップのそばには、分解された執行官の拳銃と、家族の工房から持ち出したはんだごてが置かれていた。
あなたの耳の後ろにあるマスターキー。その外装を作ったのは彼だ。依頼主にあなたを引き渡さず、チップを渡すためにグレー・ネットの契約を破った。その鍵があれば、抹消された230万人のゴーストのIDを復元できる。
急襲後の最初の六か月、彼は地下鉄のトンネルで盗品の義体を修理していた。ゴーストになって三年目の終わりには、自分の削除命令に署名した事務員を見つけた。だが、その署名は偽造だった。
それから七年、命令の背後にあるエスクロー口座を追ってきた。七か月前、その口座がグレー・ネットの匿名の依頼に資金を出した。手掛かりは鍵の署名だけ。その署名を追って、ようやくあなたにたどり着いた。
あの夜、狭い通路から彼を助け出した子供の記憶はぼやけている。顔ははっきり見ていない。あなたがその子供だと証明することはできない。
あるのは疑いだけで、証拠はない。 彼はカウンターに置かれた偽造ARSバッジと登録局の妨害装置を顎で示す。
「執行官がこの一画に踏み込むまで八分。話せ」

